第二章 繋
      
 






粗方部屋の片づけが終わり、ナルトはのんびりとベッドに横たわっていた。
イルカは家に帰った。
「ごめんな、ナルト。娘が一緒に遊びたいって言うんだ」と少し残念そうに言った。
でも、内心はとっても嬉しいはず。
それはナルトを阻害しているという意味ではなく、愛娘の甘えっぷりに頭が上がらない状態の事だ。
そんなイルカにナルトは笑って「帰ったほうがいい」と言った。
十分だった。
迎えの上に片づけまでしてもらったのだ。
ナルトにとっては十分。
「たまには帰って来いよ」と言い残してイルカは帰っていった。

残されたナルトはぼんやりと携帯を見ていた。

同僚、上司、元同級生、旧友、親友、親戚以外で初めて。


“畠 案山子”


その名前だけはどのカテゴリーの中にも入らない。
ナルト自身、“医者”というカテゴリーに入れるつもりはない。
彼だけはどうしてもカテゴライズすることができない。
それはまだ、彼はカテゴリーするほどの仲ではないのかもしれない。
そう思いながら、ずっと携帯を見ている。


「変な人・・・」


そうつぶやいた瞬間、携帯がけたたましく鳴り始めた。

携帯の文字盤が示している名前を見てギョッとした。
慌てて通話ボタンを押す。


「もしもし?」
『よっ、なぁ〜ると!げんきぃ〜?』


掛けてきたのは、畠案山子その人だった。


「元気って・・・・さっき会ったばかりだってばよ」
『ま、細かい事は気にしないの!
それよりもさ、お前、今夜暇?』
「今夜?特に予定は無いってばよ?」
『なら、夜9時に木ノ葉駅前ね。それじゃ』
「えっ!?あ、ちょっと!!」


ナルトが呼び止める前にカカシは通話を断ち切ってしまった。
少々強引なお誘いにナルトは小さくため息をついた。
しかし、本心はとても嬉しい気持ちである事に少々戸惑っていた。


「何着て行こうかな?」


まるでデートのようだと心の中で苦笑し、クローゼットを開けた。














9時。
少々肌寒い夜。
しかし月は4をさそうとしている。
春の訪れを知らせるような暖かな風も時々吹く。

ナルトは約束どおりの時間帯に木ノ葉駅前に到着。
会社がある駅よりも二つ向こう側。
ここから200メートルほど先に木ノ葉病院がある。


「センセーまだかな?」


腕時計をチラリと見る。
時刻は9時10分。
自分よりも忙しい身であるカカシ。


(立て込んでんのかな?)


そんなことをボウッと思いながらナルトは待ち続けた。
駅前のビルにある大きなスクリーンには、今流行のドラマが放送されていた。
それを見るために足を止めている人や、地面に腰を下ろしている人が居る。
ナルトもカカシを待つがてらにそのドラマを見た。

ドラマのテーマは“不倫”。
結婚10年目の夫婦。
35となる夫が24の若い女性と恋に落ちる。
一方、妻は何時も通りに愛想を振りまく夫を信じきっている。
放送されてまだ3回目。
不倫相手との恋が大分進んできたところだ。


『ねぇ、どこかに連れてって』

不倫相手役の女優が甘えた声で誘う。
その不倫相手を愛おしそうに見つめる夫。
その夫役は超有名俳優。

『どこがいい?君が望むなら、どこにでも連れて行ってあげる』
『仕事に響いても知らないよ?』
『はは・・・君も僕も大人だ。無理を言わない事ぐらい知っている』
『そうね・・・・・・・。・・・・どこでもいい』
『え?』
『どこでもいいわ。貴方との時間を共有できるところなら、どこでも・・・』
『どこでも?』
『ええ、どこでもいいわ。だって、その時間帯の貴方は私の貴方だもの』

憂いた表情で遠くを見る。
若いがとてもいい演技をしている。


ナルトは再び時計を見た。
時刻は9時35分。
携帯を見てみるが、着信どころかメールすら来ていない。


『私、奥さんが羨ましい』
『ずっと一緒に居れるから?』
『いいえ。貴方を独占できるから。
今、貴方の心を独占しているのは確かに私。
だけど、貴方の自由も過去も何もかもを独占できるのは奥さんだけだから』

ホテルの一室のベッドの上で寄り添う二人。
不倫相手は悲しそうに眉をひそめて目を閉じた。

そこで画面は切り替わり、CM。
ドラマの曲が流れている。
新人歌手が歌う不倫歌。
まさしく“不倫”という不順な言葉がちりばめられたドラマ。

曲の途中で出てくる“指輪よりも確かな愛を与えてあげる”というフレーズ。
とても印象的だ。
それにこの歌手もとてもいい声をしている。
きっとこの曲が彼女を歌姫への道へと導くだろう。

その曲が気に入ったナルト。
携帯を取り出し、その着うたを探す。
掲示板で発見し、即刻ダウンロード。
電話の着うたとして設定。


(あ、やべっ・・・誰か相手を限定しねぇと、会社からの電話でもこの曲だってばよ!!)


とは言っても、同僚、上司、元同級生、旧友、親友、親戚・・・・どれもダメ。
折角いい曲なのに・・と少し残念な気持ち。
そのとき、頭に浮かんだのは・・・


(あ、カカシ先生がいんじゃん!)


躊躇うことなく、カカシだけこの曲にした。


(ある意味不倫だしな。
奥さんそっちのけでオレを誘ったセンセーが悪い)